戦後日本社会におけるエンゲイジド・ブディズムの特質
2022年9月30日(金)17:30〜19:30 龍谷大学大宮キャンパス
基調講演:島薗進
上智大学グリーフケア研究所客員所員・大正大学客員教授・東京大学名誉教授
パネリスト:
大河内秀人(浄土宗僧侶、ソーシャル・ジャスティス基金企画委員)
小原克博(牧師、同志社大学神学部教授)
近藤俊太郎(本願寺史料研究所研究員)
岩田真美(龍谷大学ジェンダーと宗教研究センターの長)
司会・進行:嵩 満也(龍谷大学国際学部教授)
国際コメンテーター:ワッツ・ジョナサン(日本エンゲージッドブッディズムネットワーク (JNEB)
このセミナーでは、近代日本における仏教の社会倫理の歴史を視野に入れながら、戦後の仏教の社会倫理について検討する。戦時期の国策への全面協力に対する反省と平和への貢献を高く掲げたはずの伝統的仏教界だが、その具体化はなかなか進まなかった。1950年代核実験反対運動や1970年代靖国神社国家護持への反対などでは一定の盛り上がりを見せたが、日常的な活動は葬祭仏教の枠内に止まる傾向が続いた。
そうしたなかで、仏教系の新宗教である創価学会や立正佼成会などでは菩薩行や「立正安国」といった理念を背景とした政治活動や社会活動が活発に行われた。立正佼成会が大きな役割を果たして形成された世界宗教者平和会議(WCRP、RfP)は、幅広い宗教協力の下で世界でも有数の宗教的平和運動へと成長していくが、その背後では、平和を目指す仏教的な社会倫理が大きな役割を果たしていた。創価学会も国連などを場とした平和活動に積極的に取り組み、立正佼成会とともに核兵器禁止条約の制定に貢献する団体となった。
だが、伝統仏教界を広く見渡すと、社会倫理的な意識はあまり高くなく、平和のための活動もさほど活発にはならず、貧困、格差、差別、環境問題などへの取り組みもあまり目立つものにはならなかった。ベトナム難民問題を端緒としたシャンティ(曹洞宗ボランテイア会)や少し後の時期に発足するアーユス()などの社会活動は東南アジアなど海外に力点を置いたもので、国内での取り組みは目立たなかった。その背後には、福祉国家の理念のもと、国内の人々の福祉に関わることは政治に委ねるという意識も作用していたと思われる。
しかし、21世紀初頭の20年間で、仏教の新しい波が到来し、そこでは伝統仏教の僧侶がより活発に社会的に活動し、公共的な領域に貢献する例が増えてきている。例えば、終末期ケア、自殺防止、災害トラウマ、貧困緩和、脱原発や環境活動、さらには平和や社会正義に関する政治的問題などの分野においても、それ以前と比べると、活動や反省・考察が広がっているようである。これらの活動や考察の多くは、仏教徒が「疎外された社会」のあり方に対応するために、菩薩の慈悲にもとづく新しい社会倫理的実践を推進しようとするものを見なすことができる。また、人々が個々人の関心事を超えて、社会的な支援システムから外れてしまった人々に関心を持ち、支援し、寄り添うことを奨励している。
これらの活動は、普遍的な慈悲と非暴力に基づいた、現代日本のための新しい社会倫理を明示し実践しているものと見なせるだろうか。少なくとも第二次世界大戦の終わりから国際的な仏教界の社会参加仏教(エンゲイジド・ブディズム)の社会倫理ビジョンはそのように描かれている。だが、現代日本仏教における社会倫理のあり方は、必ずしも国際的に議論されている社会参加仏教のそれとは合致しないようである。本セミナーでは、現代日本仏教の社会倫理について、近代日本仏教の歴史を視野に入れつつ考察し、国際的な社会参加仏教(エンゲイジド・ブディズム)の像とも照らし合わせながら考察していきたい。
なお、このセミナーは、日本エンゲージッドブッディズムネットワーク (JNEB)が継続的に行っている「エンゲイジド・ブディズム研究会」の一環で、国際仏教交流センター(IBEC)の近刊『日本のエンゲイジド・ブディズム・歴史的な視点と現代的な実践例』に掲載されているテーマやアクティビティを取り上げるものでもある。
日付・場所
開催日期:2022年9月30日(金)
開催時間:17:30~20:00
開催場所:龍谷大学大宮キャンパス 清和館3F大ホール
* 状況により、会場への入場の制限あるいはオンラインでの開催となることもあります。
問い合わせ先:E-mail:rcwbc.ird@gmail.com
主催: 龍谷大学世界仏教文化研究センター
共催:日本エンゲージッドブッディズムネットワーク (JNEB)
基調講演者とパネリストプローフィル:
島薗進:1948年生まれ、宗教学者。上智大学大学グリーフケア研究所 所長。東京大学名誉教授。宗教学をベースに、死生学やスピリチュアリティなど境界を超えて幅広い活動を精力的に展開している。2012年に『日本人の死生観を読む 明治武士道から「おくりびと」へ』(朝日選書)で第6回湯浅泰雄賞を受賞。日本宗教連盟理事も務めた。現代日本の宗教研究の第一人者であり、外国語に翻訳された著書も多数ある。また、宗教団体による被災者支援、反原発活動、社会倫理における宗教の役割などの分野で、その見識を積極的に社会に還元している。
大河内秀人:1957年生まれ、大学を卒業して仏門に入った1980年、インドシナ難民が大量に流出した時期であったのがきっかけで、国際協力・NGO活動に参加するようになる。アジアやアフリカの紛争や災害の現場で人々と接する中で、自身の地域を含め、コミュニティの大切さを実感する。江戸川区内で、環境団体「足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ」、子ども支援グループ「江戸川子どもおんぶず」に設立からかかわり、地域の有志と一緒に取り組んでいる。また、宗教宗派、国境を越えた仏教者・宗教者とのネットワークにも積極的に参加し、平和・人権・環境などの活動に取り組んでいる。日本での先駆的な活動と国際的実践をつなぐべく、2015年からは国際エンゲージド・ブッディスト・ネットワーク(INEB)と共に国際エコ寺院運動パートナーシップを創立した。
小原克博:1965年生まれ、日本の牧師、宗教学者、同志社大学神学部教授。専門は、比較宗教倫理学、キリスト教思想、一神教研究。1989年、同志社大学神学部卒業。1996年、同志社大学大学院博士課程修了、博士(神学)取得。日本基督教団の牧師であり、1997年から1999年にかけて、日本基督教団奈良教会の協力牧師を務めた。地域における住民運動にも関与しており、滋賀県の旧志賀町における広域廃棄物処理施設建設計画に反対する住民運動組織「志賀町産廃施設計画問題・住民ネットワーク」(現在の「しが廃棄物問題住民ネットワーク」)が2002年に結成された際にはその代表となり、2003年に施設反対の立場から山岡としまろが町長選挙に出馬した際には後援会長を務めた。2010年8月より、同志社大学一神教学際研究センター長。
近藤俊太郎:1980年京都府に生まれる。2003年龍谷大学文学部史学科仏教史学専攻卒業、2008年龍谷大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。現在、本願寺史料研究所研究員、龍谷大学非常勤講師。博士(文学)(龍谷大学)。 単著に『天皇制国家と「精神主義」――清沢満之とその門下――』(法藏館、2013年)、共編著に『近代仏教スタディーズ――仏教からみたもうひとつの近代――』(法藏館、2016年)、『令知会と明治仏教』(不二出版、2017年)、『近代の仏教思想と日本主義』(法藏館、2020年)などがある。『親鸞とマルクス主義 闘争・イデオロギー・普遍性』(法蔵館、2021年)より現職。
岩田真美:1980年生まれ、近世・近代の真宗教学史が研究分野。浄土真宗の教学が、その時代の社会や諸思想などの影響を受けながら、どのように展開していったのか、本願寺教団の動向を中心に研究。特に近世から近代への展開、現代とのつながりを視野に入れたアプローチを試みている。近年はジェンダーの視点から、女性と仏教の問題にも研究の幅を広げる。2020年4月に日本で初めての“ジェンダーを基軸とした宗教研究”の拠点「龍谷大学ジェンダーと宗教研究センター(GRRC)」が開設され、同宗教研究センター長に就任。